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セロ上です。 2019.2.24 どうやら出番のようだ/ハンタスティックウェイにて頒布したものです。 A5/42ページ ~あらすじ~ お互いに友人で同志として卒業し、二年ほど経ったある日。 プロヒーローとして精力的に活動していたセロファンが、大きな現場で不慮の事故に遭います。 セロファン自身に怪我などはないものの、心に大きく傷を負います。 その彼が無意識に縋りついた相手が、友人の上鳴電気でした。 卒業式のあの日、二人の間にあったのは『友情』だったのか。 『友情』が『慕情』に変わるまでを、お楽しみ頂けたらと思います。 ⚠注意書⚠ *卒業後プロヒーロー、未来捏造設定です。 *上鳴に彼女がいる・できるような場面があります *人が死ぬ描写があります ハ ッ ピ ー エ ン ド です! ※イベント頒布価格に手数料・梱包材費を加算させていただいておりますm(__)m
本文サンプル
舞い散る桜の花びら。胸には花飾り。手には卒業証書。級友で同志たちの、晴れ晴れとした顔と賑やかな声。 雄英という温かくも厳しい巣で学び、闘い、互いを高め合いながら、卵から雛鳥へと育った俺たちは、今日を以てその巣を旅立つ。これからは、担任の相澤先生を初めとしたプロヒーローから学び取った知識や意識、己の個性の活かし方を基礎として、ヒーロー事務所で成長を続けていく。雛鳥がいつ一人前の鶏になれるのかはわからないが、いつかは、先生方に心の底から「プロヒーローの面構えになったな」と、褒められたい。それがゴールではないけれど、その言葉をいただいた時こそ、本当の『卒業』なのだと、俺は思う。 「瀬呂! 写真撮ろうぜ!」 金髪に黒メッシュの同級生が、肩を組みながらスマートフォンを構えた。 「おう、いいぜ。上鳴とツーショットなんて色気ねぇけどな」 「でんこちゃんになってもいいのよ?」 「ブハッやめろよっ」 二人でひと笑いすると、小さなレンズに向かってニカッと歯を見せて笑う。何回かシャッター音が鳴った後、上鳴と画面を覗き込んで写りを確認する。 「瀬呂はやっぱ地味にかっこいいよな。ほい、送った」 「お前も黙ってりゃイケメンだよな。サンキュ。あとウェイってならなきゃな」 「うるせー!」 冗談で殴ろうとする上鳴とギャハギャハ笑っていたら、遠くで上鳴を呼ぶ声がした。芦戸の隣に、知らない女の子がうつむき加減で立っていた。雰囲気を察するにこれは……。 「上鳴……リア充は……爆発しろ……」 ぬっと現れた峰田が、およそヒーローになるとは思えない形相で上鳴に中指を立てた。 「へ? リア充? 何が?」 峰田の言葉と表情が理解できない上鳴の背中を押しながら 「峰田はほっといていいから、あの子のとこに行ってこいって、黙ってりゃイケメンの電気くん」 と送り出してやる。 「上鳴……後で諸々問い詰める……」 隣でブツブツ呟く峰田を放って窓へ近寄ると、最後になるであろうここからの景色をじっくりと目に焼き付けた。 「これで上鳴も彼女持ちかぁ~」 上鳴とは、なんだかんだと同じ時間を過ごすことが多かった。趣味も性格も違うのに、一緒にいて苦痛と思わなかったのが不思議だ。あいつはアホだけどさすが雄英生ということもあって、頭はいい。三年かけて自分の個性のコントロールをマスターするほど努力家でもあるし、なにより底抜けに明るくてクラスのムードメーカーだった。あいつの魅力に気づいた子たちから告白されても、全部断ってヒーローになることだけを必死に追いかけるほどに一途だったりもする。あんなに彼女がほしいって言っていたわりに、毎回悩みながら断るんだから、根は真面目だ。そんな奴と友達になれたのが、本当に俺は嬉しかった。まあ、そんなこと絶対あいつには言わないが。 「さて」 卒業式は今日だが、退寮は明日だ。帰ったら最後の荷造りをしなければ。 「あ……」 ふと、上鳴とさっきの女の子が外に出てきたのが見えた。人気のない場所と言っても、ここからは丸見えだぞーと心の中でつっこみつつ、カーテンを閉めてあげる俺ってばなんて優しいんでしょ。上鳴を待っててもしょうがないから、さっさと帰りますかね。 「あ、瀬呂くん! 今夜は卒業パーティーだかんね!」 帰ろうと教室を出かけた瞬間、葉隠に腕を掴まれた。 「はいはい。蛙吹と爆豪と佐糖のスペシャルメニューだっけ?」 「そうだよ! 他にも色々買い出し行くから、十三時に玄関に集合ね!」 「え。俺も行くの?」 さも面倒だと言わんばかりの表情で言えば、もう! と見えないながらも小さく怒る葉隠が俺の肩をぽんっと叩いた。 「料理しない組は買い出しと後片付け、飾りつけって決めたでしょ!」 「あ~、そうだったねぇ」 そういえば、いつだったかそんなことを言われたような気がする……。 「あれ? 上鳴くんは?」 横から麗日が訊ねてきた。 「卒業式の日にお呼び出しと言えば?」 にやりとする俺の言葉に、麗日と葉隠がキャァキャァと黄色い声を上げた。恋バナ好きだねぇ。 「えー、じゃああれだね。瀬呂くん、寂しくなるね」 何気ない葉隠の一言に、一瞬返答が詰まった。 「……全然寂しくないんですけど」 「あ~、まぁそうだよねぇ。事務所も遠いし、何より遊んでる暇なんてないもんねぇ」 「いや、別にそういう……」 「あ! じゃあそういうことで! 十三時に玄関ね! 上鳴くんにも言っといてね!」 俺の言いたいことはお構いなしに一方的にしゃべくられ、葉隠と麗日は嵐のごとく去って行った。三人揃えば姦しいなんて言うが、二人でも十分姦しいぞ。 「はぁ」 ため息を一つついて、俺はようやく教室を後にした。 ~中略~ 「俺ね、夜勤なの。歯ブラシとパンツと靴下は、さっき買っといた」 「泊まる気まんまんじゃねぇか」 俺が若干引き気味に言うと、ふへへと笑ってレモンサワーを飲み干した。 「だってさ、お前、一人になりたくなかったっしょ?」 「……」 さっきまであんなにふざけ合っていたのに、上鳴はこういうところがあるからずるいと思う。 隣で頬杖をつきながら俺の目を覗き込んでくる琥珀色の目が、酒のせいか潤んでいる。学生時代に、何度もきれいな目だなと思っていた。俺は髪も目も黒いから、真反対に派手な金糸のような髪もこの目も好きだった。 「なぁ、なんで俺だったの?」 もう何本目かもわからないチューハイの缶を開けながら、上鳴が問うてきた。 「わっかんね。気づいたら掛けてた」 グラスの焼酎を一口含むと、首を傾げながら答えた。 「ぶはっ まじか。そっか」 つまみの枝豆を指先でいじりながらそう呟く上鳴の横顔は、心なしか嬉しそうに見えた。酔って変なフィルターでも掛かっているのかもしれない。酒で上気した頬も、耳がほんのり赤いのも、潤み目なのも、酔って緩い口元も、全部が、俺の知っている上鳴ではなくて、プロヒーローとして日々切磋琢磨している立派な成人男性なのに、こんな、こんな……。 「おまえ、こんなかわいかったっけ?」 「へぁ? せろ、何言って……んっ」 あ、俺、酔ってるな。そう思った次の瞬間には、パチッと静電気が弾ける音が聞こえた。まん丸く見開かれた目との距離に違和感はあったが、上鳴の唇があまりにも柔らかいから、 「もっかい、いい?」 何も考えずに自然とねだってしまった。 鼻の先が触れ合う。赤く染まる耳朶にそっと触ると、肩がぴくりと跳ね、上鳴の体のあちこちで小さな静電気が弾けた。それなのに、酔いが回った頭では正常な判断ができないのか、上鳴は拒もうとしない。沈黙は肯定なり。なんて、便利な言葉だろう。再び押し付けた先は、やっぱり柔らかくて、微電流のせいで少しの痛みを感じた。 鼻が詰まり気味だから味がわからないな、って思った時には、もう下唇を柔く食んでいた。はむ、はむ、と唇だけで上鳴を食べていくうちに、閉じられていた歯列がほんの少し開いた。 「んぅっ」 自然と絡む二枚の舌が、互いの味を知っていく。酒の味。枝豆の味。上鳴の、味。スパイスのような痛みは、いつの間にか止んでいた。 ほんの出来心。酔った勢い。それから、上鳴がかわいかったからっていう理由を自分に押し付けて、まだ戸惑っている上鳴の腰に手を回して引き寄せる。好きな女の子としかしたことがなかった行為を、上鳴とする意味なんてわからない。でも、今の俺が上鳴を欲しているなら、意味などなくてもいいじゃないかと甘たるい脳みそを説き伏せる。 荒い息遣いと、時折零れる互いの声。何度も何度も角度を変えて咥内を舐めまわし、舌を舐り、やがて擦り合わす唇の輪郭は柔らかくぼやけ、混ざる唾液を幾度となく飲み下した。 「は……ぁ……っ」 どのくらいキスを交わしていたかわからないが、このままではよからぬ感情が生まれてしまいそうで、最後にチュッと吸いついてから離れた。 「……これも『気づいたら』してた感じ……?」 「あー……どっちかっつーと、酔った勢い?」 「なにそれ、最低じゃん……」 「ごめんって言ったほうがいい?」 「やめろよ、なんか惨めな気分になるだろ」 手の甲で唇をぐいと拭うと、テーブルの上の缶を呷った。 「俺、シャワー行ってくるわ。寝ンなよ? 風呂入れよ?」 「わかってるっつーの」 スマートフォンをいじる上鳴は、俺のほうを見なかった。 「ふぅ……」 浴室のドアを閉じると、俺はドアにもたれて息を吐いた。先ほどの時間はなんだったのか、改めて考えると頭を抱えてしまいそうだったが、実はもっと深刻な事態になっていた。 「なんで勃ってんだよ~……」 それなりに酒も飲んでいるというのに、俺の下半身は元気いっぱいだった。上鳴の腰を引き寄せたあたりからむずむずはしていたのだが、まさか男の友人相手にそんなになるなんてと見ないふりをしていたのに、本能はとても正直だった。キスの合間に漏れ聴こえてきた上鳴の艶声は、俺の腰に甘く響いて溶けていった。どんな顔でキスをするのか興味本位で薄目を開けてみたら、眉根を寄せて苦しそうに目をつぶり、はふはふと溺れるような浅い呼吸を繰り返し、その色素の薄いまつ毛には、生理的なのか感情的なのかはわからない涙が付いていた。途端に俺の中の苛虐心が、ゆらりと首をもたげるのを感じた。 あの仄暗い感情はなんだったのだろう。 洗面台の鏡に向かい合いながら、自分の心を手探りする。しかし、しっぽの先すら掴めない。自分でも何となくわかっているから、わざと掴まないのかもしれない。 「あーぁ……」 鏡の中の俺は、自嘲する。俺はきっと、引き返せない一歩を踏み出してしまったんだ。